被災復活ピアノについて

1. ピアノ復活の経緯

2011 年 3 月 11 日にこ の街は一帯が津波で覆われ たわけですけど、礼拝堂は 皆さんからお見えになれる 白い線まで、1 階部分の天 井まで津波がやってきまし た。その時わたしは裏山に 逃げて難を逃れました。翌 日帰ってきた時に見たらここらへんは泥の山 でした。この聖壇も、みなさんが座っている木 の椅子も倒れごちゃごちゃになっていました。 その中で、グランドピアノはというと、みなさ んから見て左手奥で三本足を上に出してひっ くり返っていました。津波でぐうっと持ち上げ られてそれから逆さまに沈んだのでしょう か?私一人で教会を片付けられないなと思っ ていたところいろいろな方々がボランティア で助けに来てくださって、ピアノも助け起こし てくれました。しばらく放っておいたのですが、 4 月 30 日にピアノの音がまた鳴ったんですね。 この感激、おわかりいただけるでしょうか?あ の被災現場で、被災したピアノが音を奏でてい る。傷つきながら音を出しているピアノ、これ が僕の中では傷ついた人が復活するという幻 に見えたのです。聖書を読んでみると、イエス キリストは傷ついたままで復活したと書いて あるんですよ。「ここにキリストがいるー捨て ちゃだめですよ」と言い続けておりました。 その当時はピアノは礼拝必須ではありませ んでした。建物はボロボロ、街も大変な状態で、 「そんなこと言ってい る場合じゃない」とみな さんの想いを受け取り まして、礼拝堂の修築を 優先させてまいりまし た 。 礼 拝 堂 の 修 築 は 2014 年になるわけです けど、そこに至るまでも ご存じのとおり私が鬱 になって休職したりと大変な日々でした。そん な中でもこのピアノは「捨てないでください ね」と言い続けたので、礼拝堂の片隅でひっそ りと礼拝堂が修築されるのを見守っていてく れました。そのことに感激してくださった人た ちがぽつぽつと現れてきて「直しましょうよ」 と僕以外の人の小さな声が出てくるようにな ってきました。2015 年1月さいたまピアノ工 房さんにもう一度連絡したところ、「まず見に 行きます」と言ってくださいました。来てくだ さったのは 5 月です。最初に見に来て分解して くれた時から、4 年たっております。ピアノの 心臓ともいえる響板、木の板のところが「すご くいい音が鳴っています。4 年間乾かしてきた 意味があります。すごくいい音が出るのでピア ノは生まれ変わります。」と言ってくださいま した。そこから教会で直すべきか廃棄すべきか ということで話し合いは進みまして、教会とし てお金をかけて直すという決断をすることが できました。9月にはさいたまピアノ工房さん に運んで修復をしてもらいました。修復に入っ てからも本当に並々ならぬ苦労があったと聞 - 3 - いています。こうして震災から5年たった6月 に礼拝堂に戻ってきました。今日、初めてのコ ンサートということで教会員だけじゃなくて みなさんとも、その奇跡を共有したいと思いま す。

 

2.人の目から見て不要と思えるものにも 神さまは目を留める

ある意味ですね、ピアノが必須でなかったこ とにメッセージ性があります。日曜午前中の礼 拝ではあまり使っていなかった。要らないと言 えば要らないんですけど、そういう要らないと 思えるものに目を向ける。これは神さまの眼差 しなんです。人の目から見て役に立たないと思 われる人やモノにキリストが宿っているとい うことは聖書が語る大切なメッセージです。自 分自身でも「こんな自分、いなくなってしまっ たほうがいいんじゃないか」と思う時もあるか もしれません。でもそこにキリストが宿るんで す。イエスさまはあなたを大切にしたい。「あ なたの命は大切だよ。決して見捨てないよ。」 こんな風にかけてくださる声に耳を傾けてい ただきたい。もう捨てられそうになって要らな いと言われたピアノがみなさんに喜んでもら えるような存在になった。それは釜石の復活の 象徴になると思います。これから復活していく 人たち。はっきり言っちゃいますけど、釜石は お年の方が多いんでこの世の人生は短いと思 うんですよね(笑い)。でも復活するんです。 この世の人生だけで終わりじゃないんですよ、 この世の人生だけで終わったら終わりなんて ことは神さまはおっしゃっていません。永遠の 命に生きてください。そのように願っておりま す。このピアノが復活したことでみなさんを元 気づけて、皆さんの身体がいつか衰えてしまう 時でも、「あなたの命は見捨てられることはな い」という声をかけてくれるように願っており ます。このピアノがですね、そのようなメッセ ージを発していくためには実は上手な人だけ が弾くピアノにしちゃだめなんです。ピアノが 弾けない人でも来て触れていく。自分の指で音 を出していく。そこに命を与える音が出ると信 じております。

 

3.おかえりなさい~被災ピアノ復活の歌

このピアノの復活にあたって詩ができまし た。今まで言ったような経過をた どってピアノが復活したことを詩にしており ます。泥の中にひっくり返ってたピアノは、も う捨てられると絶望していたんだろうなぁ。で も、震災後初めてこのピアノの音を聞いた時の 感激は涙を流すほど嬉しかったです。震災の傷 がなかったことになるんじゃなくて、痛みを受 けたことが、使命を受けていく、新しい命によ みがえるというメッセージを込めております。 私自身最悪の時から復活してきたなぁと思い ますし、みなさんの中にも大きな傷や痛みを持 った方がいらしゃると思います。思い起こすと 大きな痛みを持った方がいらっしゃると思い ますけれども、その痛みを持ったことが何かし ら新しい命につながるんじゃないでしょうか。 今日は素晴らしいピアニストをお呼びして、 演奏をしていただきます。みなさんも実際に触 れていただいて、自分自身に神さまのメッセー ジとしての音色を弾いていただきたいと思い ます。その前に、ピアノに込められた歌を綴っ た歌をお聞き下さい。

(新生釜石教会だより~2016年クリスマス号より)

おかえりなさい 被災ピアノ復活の歌

 詞 柳谷雄介 曲 川上盾

 

おかえりなさい、君の帰りを待ってたよ

あれから5年の月日が流れた

 

泥の中にひっくり返ってた君を

助け起こしたあの日、君は絶望の中にいたのか?

でも、君の声を聞いてから僕は信じてた

「必ず君は元気に、よみがえる

 大きな傷を受けたこと

 なかったことにはできないけれど

 痛みを知った君にしか

 負えない使命を身に受けて

 新しい命に輝くその時が

 いつか必ずやってくる」と

 

(間奏 「響きわたれぼくたちの歌 生まれ変わる神戸のまちに届けたいわたしたちの歌 しあわせ運べるように」)

 今、君は前よりも 美しくなって

 僕らの元へと帰ってきた

 これから共に助け合い

 一緒に歌を歌い続けよう

 僕らは君を見捨てない

 神さまも君を見捨てない

 

 おかえりなさい、君の帰りを待ってたよ

 これから新たな月日がはじまる

 ここから僕らの歌が生まれる

 

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